NPO法人(設立認証申請中)南アジア文化遺産センターのブログです。センターのウェブサイトはこちら
This is the official weblog of NPO*-JCSACH (Japanese Centre for South Asian Cultural Heritage).
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*certification procedure is in progress

2014年10月7日火曜日

インド学会消息

 事務局長の野口です。おかげさまをもちまして9/24付で東京都よりNPO法人の認証をいただき、設立登記の手続きも済みました。今後、正式にNPO法人としての活動を開始することになります。引き続き、みなさまのご支援・ご協力を賜りますよう、お願い申し上げます。

 ところで、現在インドにおります。中西部マハラシュートラ州プネーに所在するデカン大学院大学(Deccan College Post Graduate and Research Institute)で開催されている合同学会(デカン大学院大学創立75周年記念国際セミナー「考古学と言語学」、第48回インド考古学会、第42回インド先史学・第四紀学会、第38回インド歴史文化学会)に参加しております。日本からは、私を含め4人が参加しています。初日は記念行事、その後、2日目〜4日目まで4会場で212本の発表が行われるという巨大学会です。それ故に運営はなかなか大変なご様子…
 写真は上から、記念行事が行われた大ホール、300人が集まって大混雑の昼食会場、昼食、大ホール傍のキッチンです。
 学会の内容については、またあらためて。


2014年9月30日火曜日

インド考古研究会10月例会のお知らせ

インド考古研究会よりのお知らせです。日本ではあまり知られていないインドの近世~近代工芸の一端に触れる機会です。ふるってご参加ください。

インド考古研究会10月例会

インド・ガラス絵小史
~忘れられたもう一つの大衆宗教画~

 18世紀中葉から20世紀初頭にかけての約150年あまりの間、中国人画工やインド人画工により、王侯貴族の肖像画やヒンドゥー教の神々の図像を描いたガラス絵がインド各地で制作されました。現在インド全土で見られる極彩色の大衆宗教画の前史ともいえる、この忘れられたガラス絵の興亡史をご紹介いたします。

発表者:黒田 豊氏
日 時:2014年10月18日(土) 開場18:00、開始18:30~
会 場:文京区シビックセンター内区民会議室3-A(地下鉄「春日」駅下車:会場案内) 
参加申込:不要 ※インド考古研究会会員以外の方も参加できますが、当日は会場費を徴収いたします

19世紀西インドのガラス絵
(※発表とは関係ありません)
ホノルル美術館(ドリス・デューク・イスラム美術財団より貸与)
Wikimedia commonsより

2014年9月29日月曜日

何をするのか:パキスタン編(その3)

 事務局長の野口です。前回の投稿で触れた世界遺産タキシラの集中豪雨被害ですが、遺構の一部が崩落したジャンディアル(Jandial)遺跡を所管するハイバル・パフトゥンフワ州考古・博物館局長に確認をとったところ、早速、必要な予算を確保して修復措置を開始したとのことです。素早い対応が図られたということで、まずは一安心です。もう一件、パンジャーブ州が管轄するジョーリアン(Jaulian)遺跡で、遺構の覆屋が雨漏りをしている件についても、対応について確認中です。

 このように、イスラム教徒が多数派であるパキスタンにおいて、仏教文化遺産をはじめイスラム教以外の文化を背景とする遺産が放棄されたり、意図的に破壊されたりすることはなく、むしろ積極的に保護されているのです。
タフティ・バーイ遺跡(ユネスコ世界遺産)
玄奘も訪れたといわれる著名な遺跡で比較的良く保存されている
しかしながら、いかに現地の専門家たちが熱意をもっていても、それだけではカヴァーしきれないことが多くあるのも事実です。残念ながら、予算や人材、技術の不足から保護の手が行き届かない文化遺産も少なくありません。今後、経済発展が続けば、文化遺産の保護か開発かという局面が次々に生じることも想像に難くありません。
 私たち、南アジア文化遺産センターでは、民間の小規模な組織ではありますが、逆にそのメリットを最大限に生かした活動が可能です。現地との協力関係のネットワークを通じて、対策が必要だけれども手が行き届かない案件を草の根レベルから拾い上げ、より大規模な枠組みへバトンタッチするまでの間の初動の支援を行なうことは、私たちが目指すプロジェクトのかたちのひとつです。
 緊急性の高い案件への即応はもちろんのこと、当事国や国際社会において認知度の低いーしかし重要な案件に粘り強く取り組み周知を進めることも重要でしょう。これから本格的に取り組みを開始する予定の、パキスタン北部ディアメル・バシャ・ダム建設に伴う文化遺産水没問題は、そのモデル・ケースになることでしょう。
 そしてもう一つ、対象となる文化遺産ーつまり遺跡や遺物だけを取り上げるのではなく、それらが置かれている状況を、そこに関わる人びと/取り巻く社会と一体のものとして理解し、専門家に限定することなく、幅広い利害関係者と議論を深め、「より良い」解決策を見つけ出すことがきわめて重要だと考えています。このような観点から、パキスタン北西部ハイバル・パフトゥンフワ州において、文化遺産への取り組みの地域社会安定化への寄与について、多分野の研究者・専門家や言語・宗教的マイノリティを含むグループで議論し、実地調査や実践的なワークショップを行なうプロジェクトを計画しています。
ペシャワール博物館にて、パシュトゥーン人の親子
仏教遺跡や仏教文化遺産の展示された博物館はふつうに人びとが訪れ賑わっています
 こうしたプロジェクトの詳細については、またあらためて紹介させていただきます。

2014年9月24日水曜日

お知らせ:「ガンダーラ仏教遺跡・ラニガトの調査と保存」の東京報告会

 以下の催し物について開催の情報をいただきました。主催者の許可を得て転載いたします。


「ガンダーラ仏教遺跡・ラニガトの調査と保存」の東京報告会
 主 催:ガンダーラ仏教遺跡の総合調査・京都大学学術調査隊
 日 時:10月4日(土)14:00〜17:00
 場所:京都大学東京オフィス(港区港南2-15-1 品川インターシティA棟27階)
    地図は http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/tokyo-office/about/access.html
 内 容:
  1.調査と保存の歩み:西川幸治(京都大学名誉教授)
  2.主塔の増広・拡大と主塔院の変化:増井正哉(奈良女子大学教授)
  3.伽藍の変遷:濱崎一志(滋賀県立大学教授)
  4.出土土器の考察:難波洋一(奈良文化財研究所埋蔵文化財センター長)
  5.遺跡の保存と活用:増井正哉(奈良女子大学教授)
 司 会 岡田保良(国士舘大学イラク古代文化研究所長・ユネスコ国内委員会委員)

 入場無料・申し込み不要・当日先着100名
 連絡先:滋賀県立大学 濱崎一志  hamazaki[アットマーク]shc.usp.ac.jp

 京都大学は1959年以来、仏教文化の源流を求め,東西文化の交流の跡を探ろうと,アフガニスタン,パキスタンにまたがる地域で学術調査をつづけてきた。先年刊行された『ラニガトーガンダーラ仏教遺跡の総合調査(1983-1992)京都大学学術調査隊調査報告書』は1980年代から継続的につづけてきた発掘調査の報告書であり、1960年代にはじまるガンダーラの調査と研究の成果である(2013年度日本建築学会業績賞受賞)。
 今,ガンダーラの地は争乱のなかで混沌とした状況におかれ、調査地のラニガト遺跡には近づくこともできない。この状況から1日もはやく離脱し,平和が回復し,かつて東西文化が交流したかがやかしい伝統の地で,その交流の跡をたどる調査が再開されることをねがい、このシンポジウムをひらき、きびしい現状とこれからの調査と保存の展望について,市民をまじえて語りあう場としたい。



パキスタン、タフティ・バーイ遺跡
(この画像は南アジア文化遺産センターが提供するもので、上記報告会とは直接関係ありません)

2014年9月20日土曜日

何をするのか:パキスタン編(その2)

 事務局長の野口です。インド北部からパキスタンにかけての地域では、例年9月前半にモンスーンによる集中豪雨があり、しばしば洪水被害に見舞われます。今年も、9月第1週末ころからカシミール地方を中心に豪雨が続き、地滑り、家屋の倒壊、低地の浸水などが相次ぎ、インド、パキスタン両国であわせて500人以上の死者が出ました。またインドでは、北西部ラージャスターン州、グジャラート州などで、ふだんはほとんど雨の降らない乾燥地域でも集中豪雨があり道路が寸断されるなどの被害が出たようです。
 パキスタン側では、この集中豪雨による諸河川の水位上昇が継続中で、チェーナブ川、ジェーラム川、そしてインダス川本流へと洪水被害地域が南下しています。パンジャーブ州南部、シンド州では、近年の人口増加に伴って、従来は荒地のままだった氾濫原での農地開発が急速に進行しているのですが、そうした場所に入植した人びとはたびたび洪水被害に遭って貧困状態から抜け出せない状況となっています。
 そのような中で、パキスタン北部の世界遺産タキシラの一角で、保存されている遺跡の一部が集中豪雨により崩壊したり、雨漏りするなどの被害が出ているというニュースが入ってきました。詳細は、パキスタンの大手英字紙DAWNが報じています(こちら:英文)。
 今回の集中豪雨については、世界的な気候変動の影響を指摘する声もあるようです。今後も、こうした被害が続く恐れがあり、調査と対策が必要になってきます。

集中豪雨により崩落したジャンディアール(Jandial)の紀元前100年ころの寺院の一部(Dawnより

さて、前回は南アジア文化遺産センターが計画しているプロジェクトの一端を紹介しました。引き続き、調査研究や技術協力の計画について触れる予定でしたが、順番を入れ替えて、文化遺産保護の支援に関して紹介したいと思います。
 前回も触れたとおり、南アジアは現在、急速な経済成長の真っただ中にあります。その牽引役ともいえるのがBRICS(ウィキペディア)の一角であるインドであり、N-11(ネクスト11:ウィキペディア)に含まれるパキスタン、バングラデシュがそのあとを追う格好です。一方で、急激な経済成長の恩恵は国内の隅々にまで十分に行き渡っているわけではなく、貧困、保健衛生、教育など様々な問題の解決が焦眉の急となっています。このため、文化関連の政策は各国において優先順位が高いとは言えず、近代的なビル群や交通網の整備が進む一方で、世界遺産に指定されている遺跡ですら十分な保護の対策を講じられないままであるという状況となっています。
 こうした状況は、翻って見ればかつて日本でも高度経済成長期に起こっていたことでもあります。私たちは、その経験とノウハウを生かして、支援を行なうことができるでしょう。
 また、そこには日本とは異なる状況もあります。
 日本の場合、多くの遺跡は「わたしたち」の歴史の一部として認識され、尊重され、顕彰される傾向にあります。そのため、重要な遺跡の保護は、自分たち自身の文化や歴史の問題として取り扱われることになるのです。
 一方、古来、民族や文化の移動、交流と変化が繰り返されてきた「文明の十字路」とも言える地域ではどうでしょうか?
 上掲の記事に掲げたタキシラは、古代ギリシアと中央アジアの融合文化(グレコ・バクトリア)に、中央アジアに起源をもつクシャン朝がインドから仏教文化を導入して成立したガンダーラ仏教文化の中心地です。今日、この地の住民の大多数はイスラム教徒であり、大学や博物館、州政府で調査研究、遺跡保護に携わっている専門家も同様です。一般に、ここに残されている文化遺産は、現代の地域社会とは直接つながらないものと認識されています。
タキシラ・ダルマラージカのストゥーパと僧院跡(2013年撮影)

 それでも、これらの遺跡は放棄されたり破壊されたりせずに、保護されています。そこには、ユネスコをはじめとする国際的な支援もありますが、基本的には現地の人たちの努力によって、つまりイスラム教徒によって仏教文化遺産が保護されているのです。
 残念なことに、日本で、また世界各地で、この地のイスラム教徒は仏教文化の遺産に敵対的だという誤った認識が広まっています。ひとつには、2001年3月に起こった、アフガニスタン、バーミヤーンでの大仏破壊があまりにも衝撃的であったこと、もうひとつにはイスラム教に対する誤解があると思います。確かに、タキシラをはじめ多くの仏教文化遺産遺跡には頭部を破壊されたり、あるいは顔の部分を削り取られた仏像が少なからずあります。しかし完全なかたちで残されている仏像も多数あり、博物館などに収蔵されています。
 それらは普通に展示され、多くの市民が見学に訪れています。これまで、こうした博物館の展示が修正や閉鎖を余儀なくされたり、危機に晒されることは起こっていません(残念ながら、最大の危険は密売目的の盗難と密輸です。この問題については、いずれまた触れたいと思います)。
ほぼ完全に残された仏像(左)と顔面を削り取られた仏像
(いずれもタキシラ博物館、2013年撮影)
自分たちの宗教、文化とは異なっていても、人類全体にとって重要なものであるからという認識をもち、熱心に保護に取り組む専門家がいて、そのことが社会に普通に受け止められているということを、私たちはもっと知る必要があるでしょう。
 私たち南アジア文化遺産センターでは、こうした現地の情報を積極的に発信し、理解を深めることをていきたいと考えております。
(続く)

2014年9月18日木曜日

何をするのか:パキスタン編(その1)

 事務局長の野口です。先日、インド・ビザの申請を行なってきました。10月上旬に、他のメンバーとともに考古学・言語学などに関する国際会議に参加し、インドの研究者と交流を深めてくる予定です。詳細は、後日、この場にて報告いたします。

 さて今回は、前回までの投稿私たちがやるべきこと/できること同その2を踏まえて、では私たちが何を実際に行おうとしているのか、具体的な取り組みについて紹介したいと思います。なお文化遺産をめぐる状況は南アジアの中でも国ごとに大きく異なります。今回は、とくに私が情報交換と交流を担当しているパキスタンの事例について述べたいと思います。
 パキスタンは南アジア第2の国土と人口を有する国です。2013年の実質GDPは約9兆8666億パキスタン・ルピー(2014年9月18日のレートで約10兆3762億円)でインドの約1/10ですが、この10年で実質GDPは2倍となっておりN-11ネクスト・イレブン:ウィキペディアの一角にも加えられています。こうした経済発展を背景に、首都イスラマバードをはじめ、ラホール、カラチなどの大都市周辺では土地開発が急速に進み、また地方でも天然資源の開発、交通網や灌漑水路、ダムの建設整備などが進められています。そして、こうした開発の進展とともに、重要な文化遺産や遺跡が危機に瀕する状況が増えています。

イスラマバード東部のニュータウン開発地域(Bhalia Town: 2014年撮影)※旧石器時代の遺跡が湮滅
イスラマバード東部、1970年代後半~80年代前半にイギリス隊が調査した範囲はすでに住宅団地になっている(2014年撮影)

 しかし経済成長が著しいとは言え、国民の約半数がいまだ貧困層にとどまっておりアジア開発銀行2011『アジア・太平洋地域の貧困:最新情報』[英語])、社会的基盤の整備が急務とされる中、文化遺産や遺跡の保護にまで手が回らないのが実情です。また2001年以降のアフガニスタンにおけるいわゆる「対テロ戦争」の開始とその後のパキスタン国内の治安の悪化を受けて、とくに2007年以降は国際協力による支援も難しくなる局面が増えています。
 それでも、パキスタン国内の研究者や実務家は、各地で文化遺産の保護と調査研究を継続しています。現在でこそ、国民の大多数をイスラム教徒が占めています。古来、多くの民族や文明が興隆したパキスタンには、インダス文明、ガンダーラ仏教文化など多様な文化の遺産が残されています。それら文化遺産の保護や調査研究に従事する専門家もまた、ほとんどがイスラム教徒ですが、対象の宗教や文化の違いは問題とはされません。たとえばガンダーラ文化の中心地であった北西部ハイバル・パフトゥンフワ州では、ほとんどの専門家が仏教文化・美術を専門とするため、イスラム文化・美術の保護や調査研究を担う人材が不足していると嘆かれているほどです。
 このように、現地においては意欲のある人材が十分に育っているのですが、問題となるのは、海外との交流の機会が少なくなってしまったことです。そこで現地からの要望としては、最新の調査研究の理論や方法、技術、関連情報に触れる機会がほしい、必ずしも最新・最高でなくても良いから新しい機器に触れる機会がほしい、といった声が多く聞かれます。また自主的・自立的な体制を整備するためにも、教育訓練と一体となった調査研究プログラムを実施したい、図書館など情報センターを整備したい、といった要望もあります。
そのような中で、現在、南アジア文化遺産センターが現地のパートナーと協働して実施することを計画している取り組みの一つとして、保護そして調査研究対象となる遺跡の所在地を確認し共有するための地図づくりがあります。
 日本では、各自治体が遺跡地図(埋蔵文化財包蔵地地図)を整備し、開発などにより影響を受けるかどうかを判断する仕組みがすでにできています。しかしパキスタンでは、どこに遺跡があるのか、どこからどこまでが遺跡なのかを知ることができる地図は全く整備されていません。
 そこで小型で安価なGPS端末、あるいはGPS受信機を内蔵したデジタル・カメラ、さらに最近普及が著しいスマートフォンなどを含めて、遺跡の位置と現状を記録するための機材を確保します。必要に応じて、センターから一定数を提供することも必要になるでしょう。そして現地でのワークショップのかたちで大学教員や大学院生を含む若手研究者に、記録やデータの取り扱いの方法を訓練します。得られたデータは、たとえばGoogle Earthなどの無料のサービスやフリーのGISを使用して整備し、インターネットを利用して共有します。できる限り、資機材の調達費用やランニングコストを抑え、かつ日本とパキスタンという遠隔地間でも協業できる体制を作り出すことで、少しでも規模を広げつつ事業が継続することを目指します。
砂漠の中の遺跡の所在確認(ヴィーサル・ヴァレー遺跡群:2012年2月)

GPSによる位置記録

記録結果を地図に出力(等高線・段彩図はASTER-GDEMにもとづき作成)

 こうした取り組みは、遺跡の所在地と状況だけでなく、出土・採集遺物に関する情報、あるいは遺跡が立地する地理・地形に関する情報などへ範囲を広げることで、より効果的に進めることができると考えています。現在、パキスタン南部シンド州のシャー・アブドゥル・ラティーフ大学考古学研究室ほかと協働して、具体的なプロジェクト実施のための準備を進めています。またディアメル・バシャ・ダム建設に伴う水没文化遺産救援プロジェクトについても、同様の方法で、水没地域の遺跡、文化遺産の分布調査を実施したいと考えているところです。
 こうした取り組みに興味を持ち、あるいは賛同していただける方は、ぜひ南アジア文化遺産センターにご入会いただき、ご支援いただければと思います。よろしくお願いいたします。

※NPO法人の成立までの間は、設立準備事務局において入会希望の登録を受け付けております



2014年9月12日金曜日

私たちがやるべきこと/できること(その2)

 事務局長の野口です。
 前回の投稿では、私たち南アジア文化遺産センターができること/やるべきことについて触れました。今日は、あらためて前回の内容を図式化して整理してみたいと思います。

 まず初めに、私たちがすでに持っているもの/今すぐにでも機能するものは、現地とのつながり(下図1)です。言うまでもなく、この部分が私たちの活動のベースになるものです。

 私たちは、このつながりを通じて現地と情報を共有すると同時に、何が必要とされているのかを生の声として受け取ることができます(下図2)。それは...現地では入手が難しい機材等の調達・整備であったり、それらを使いこなせるようになるための訓練の機会であったり、最新の調査研究方法や分析技術などについての情報であったり、それらを得るための学術交流の機会であったりする訳です。これまでは、そうした要望について応えられる範囲で、個別・個人的に対応したりしてきたのですが、それではできることは限られてしまいます。そこでNPO法人を立ち上げて、より組織的に対応しようというのが、私たちの目的のひとつです。
 そうした需要は、個別の事情により多様です。そして、そのすべてについて私たちが対応できるかと言えば、そんなことはありません。個別の調査や小さなプロジェクトに関する案件であれば、私たち南アジア文化遺産センターが直接対応することができるでしょう(もちろん予算的な裏付けが必要なことは言うまでもありませんが...)。けれども、より規模の大きな―たとえばしっかりとした組織・体制の整備が必要な場合(下図3)などは、どうすれば良いのでしょうか?
 そのような時には、たとえば私たち南アジア文化遺産センターが窓口となって、さまざまな支援・助成制度にアプローチするといった手だてが考えられるでしょう。それがうまく行けば、現地において自主的に運営され、自立的にリーダシップを発揮できる組織・機関が整備され、地域さらに国レベルで文化遺産の調査や保護が円滑に行われるようになるでしょう(下図4)。

 それでは、なぜこのように一見すると回りくどい、と言うか時間がかかる取り組みが必要なのでしょうか? たとえば、国家レベルの支援により大規模な組織・期間を整備することからスタートすることはできないのでしょうか?
 もちろん、そうした取り組みがなされることがあれば、それは大変良いことだと思います。しかし、さまざまな社会的問題を抱えている南アジア諸国において、文化事業は必ずしも優先順位の高い案件にならないという事情があります。
 そしてもうひとつ、私たちが重視したいのは、現地において意欲のある人材がすでにいるのだということです。そこで私たち南アジア文化遺産センターでは、私たちが持っている現地とのつながりからスタートして、現地サイドの人的資源を有効活用する道すじを作ります。そして、そこからより規模の大きなプロジェクトが生まれた時には、しかるべき基盤を持つ他の組織・機関に支援をバトンタッチすることになるでしょう。
 これが、私たちが目指す、現地との協働による文化遺産の保護・活用への支援です。
 しかしながら、常にこのような手順を踏んで進めることができる案件ばかりではありません。前回も触れましたパキスタン北部におけるダム建設に伴う文化遺産水没問題などは、その代表例でしょう(ディアメル・バシャ・ダム水没文化遺産救援プロジェクトについてはこちら)。最新の公式アナウンスメントによるとダムの竣工は2024年、つまり残された時間はあと10年です。ここでは、2~3の過程(1についてはこの1年ほどの間に何とか確立できました)と並行して、現地調査を進める必要があります。今年8月に、現地において3ヵ年の基本調査計画を議論・策定したところですが、この9月から開始した予備調査の結果を逐次フィードバックして、調査計画を練り上げ、そこから必要な支援を整理し実施していくことになります。

 日本においても、1960年代以降の経済成長の時代の国土開発の進展に伴い、多くの遺跡が破壊される事態に直面しました。そのような中で文化財保護法が改正され、開発行為に際して遺跡が影響を受ける際には事前に調査を実施し、必要があれば開発計画を変更するなどの対応がとられるようになったのです。その後、全国各地に調査組織が作られ、日々、さまざまな案件に対応しています。
 しかしながら、南アジア諸国においてはそうした組織・体制は十分に整備されていません。その一方で、インドを筆頭に、かつての日本を上回る勢いで経済成長が進んでおり、多くの文化遺産が危機に瀕しているのです。
 私たちは、日本において培ってきた経験、ノウハウにもとづいて、南アジア諸国における文化遺産が直面する問題解決に手を差し伸べ、協力することができるはずです。
 これこそが、私たち南アジア文化遺産センターが目指しているものなのです。


※NPO法人の成立までの間は、設立準備事務局において入会希望の登録を受け付けております